韓国の正統性

 

 韓国と北朝鮮は独立後「どちらの国家が正統か」を巡る対立と競争を続けてきた。「北朝鮮に正統性がある」と北朝鮮はもちろん、韓国の左翼系学者や活動家たちも主張してきた。

 

 北朝鮮建国の父である金日成主席は、「我々は日本と戦争して勝利したが、南朝鮮の指導者は誰一人戦闘さえしていない。だから、正統性は北朝鮮にある」との理屈を展開した。

 

 この主張に、韓国人はなかなか反論できなかった。なぜならば、韓国は独立戦争で勝ち取った国でないという韓国人自らの「脛(すね)の大傷」があるからである。「米軍進駐により棚ぼた式に独立を得た」とは口が裂けても言えないのだ。

 

 

「正統性」は韓国人の骨の髄までしみ込んだ儒教に基づく伝統的な価値観である。自分の家族や家系を語るにも、政治行動や政治判断をする際にも最大の基準になる。朴槿恵前大統領の父である朴正煕大統領(当時)はクーデターで政権を奪取したため、「正統性がない」と常に批判された。政権や政治家が「正統性がない」と批判されると、崩壊や政治的抹殺につながる。

 

 そこで韓国は「正統性」を作り上げるためあらゆる努力をしなければならなくなった。自分の価値観が自分の首を絞めることになったのである。しかし、もともとないものを作るのだから、嘘に嘘を重ね続けるしかない、これが韓国の苦しみを増幅し続けている。

 

 

名ばかりの「大韓民国臨時政府」

 

 1919年3月1日に始まった独立運動(三・一運動)は、日本の総督府によって弾圧されたが、朝鮮半島の外にいた人々は、上海で「大韓民国臨時政府」を組織した。

 

 日中戦争が勃発すると、重慶に本部を移す。日中戦争の激化に伴い、やはり重慶に移ってきていた中華民国の国民党政府の好意の下で存続はしていた。臨時政府は、独自の軍隊である「光復軍」を設立したが、この維持費は、国民党政府が出しており、とても独立の軍隊とは言える状態ではなかった。

 

 「大韓民国臨時政府」の「政府」は自称であって、朝鮮半島の朝鮮人とは結びつきを持たず、孤絶した異郷の地にあって、しかも支配すべき国民も領土も持たない存在であった。それが「大韓民国臨時政府」の実態である。

 

 

韓国の正統性の根拠

 

 大韓民国憲法の前文は、以下のような文章で始まっている。

 

「悠久の歴史と伝統に輝く我が大韓国民は、三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統(中略)を継承し・・・」

 

 ここでいう「法統」とは「歴史的正統性」のことである。大韓民国は1919年から存在していたと言っているのである。

 

 

 韓国の歴史教科書には、「大韓民国臨時政府」の光復軍の戦いぶりが2ページわたって記述されている。

 

《日帝が太平洋戦争を起こすと、大韓民国臨時政府は日本に宣戦布告し、連合軍とともに独立戦争を展開した。このとき、韓国光復軍は中国各地で中国軍と協力して日本軍と戦い、遠くインドやミャンマー(ビルマ)戦線にまで進み、イギリス軍とともに対日戦闘に参加した。》

 

《わが民族の積極的な独立戦争は各国に知られ、世界列強は韓国の独立問題に関心を持つようになった。》

 

 《連合国の首脳らが集まったカイロ会談とポツダム宣言で、韓国の独立を約束する土台が築かれた。》

 

と述べ、光復軍の戦いが独立に寄与したことを強調している。

 

 

 しかし、大韓民国臨時政府はまったく実態がともなわず、韓国光復軍も戦績がなく、だからこそ、サンフランシスコ講和条約で韓国が連合国の一員に参加させろと強く要望しても、連合国側から一顧だにされずリストから除外されているのである。結局枢軸国・連合国双方からいかなる地位も認められず、国際的承認は最後まで得られなかったのである。

 

 したがって大韓民国臨時政府の日本に対する宣戦布告文書は、日本にも無視され、連合国にも無視されている。

 

 中学や高校の歴史教科書に、このような嘘が堂々と記載されていること自体が驚きであるが、それを学ばされている子どもたちもかわいそうである。このへんの経緯について、池上彰が書いた文献を紹介したい。

 

 

池上彰『そうだったのか!朝鮮半島』集英社 2014  P.21

 

これについて、韓国の歴史家は、次のように書いています。

 

「大韓民国が臨時政府の歴史的正統性を継承しているという主張は、憲法はもちろん教科書でも教えられてきたので、多くの国民がこれを常識として受け入れている。しかし1980年代後半以降、民族解放運動史や現代史を専攻する歴史学者のなかで、大韓民国政府が臨時政府の歴史的正統性を継承していると主張する人はあまりいない。はっきり言えば、気恥ずかしくて誰も言えないのだ」(韓洪九著、高崎宗司監訳『韓洪九の韓国現代史』)

 

 なぜ歴史的正統性を継承していないというのでしょうか。韓氏は、こう言います。

 

「大韓民国政府の高級官僚、なかでも警察と軍においては、それまで日帝に仕えてきた親日派が主流を占めていたのです」

 

「親日残滓勢力の清算や、分断克服などの課題に対する臨時政府の核心となる政策もまた、大韓民国においては継承されませんでした」

 

「そうだとすれば、李承晩政権をはじめとする歴代の政権は、なぜ臨時政府の歴史的正統性を継承しているという主張を繰り返してきたのでしょうか? こうした政権は自らに欠如している正統性を、臨時政府の業績と権威を借用して補おうとしたのです。とりわけ南北分断の状況にあって、満州で抗日武装闘争を繰り広げた勢力が北で権力を掌握し、自身の業績を革命伝統として誇るや、南の政権は臨時政府に託してこれに対抗したのです」

 

 北朝鮮の指導者ばかりが日本と戦っていたわけではない。韓国の指導者も、日本と戦って祖国を建国した。こういう「建国神話」を作るため、「大韓民国臨時政府」の名前に頼ったというのです。

 

「48年に樹立された、単独政府としての大韓民国政府が実際に継承したものは、臨時政府ではなく、臨時政府を徹頭徹尾否定していた米軍政でした」(同書)

 

 

 北朝鮮は、抗日武装闘争で日本の支配と戦ってきた抗日ゲリラの指導者・金日成によって建国されたと主張しています。これ自体、実は「神話」でしかないのだが、北朝鮮が反日闘争を実践してきたという「正統性」を主張すると、韓国の指導者は具合が悪かったのです。新政府の中枢にいたのは、日本の植民地支配に協力した人物たちでしたし、李承晩は、アメリカでの生活が長く、日本の支配と直接戦っていたわけではなかったからです。

 

 1940年代にアメリカにいた李承晩は、全朝鮮を代表する正統政府としての承認をアメリカ政府から得ようと工作しますが、相手にされませんでした。臨時政府の実態とは、このようなものでした。

 

 しかし国民に対しては、朝鮮半島の外にあって、抗日戦争を戦い抜き、日本を敗北させた臨時政府。この臨時政府を継承して建国されたのが、現在の大韓民国であると伝えます。韓国の建国には、この「建国神話」が必要だったのです。

 

 日本が降伏したから、棚からボタ餅式に建国できた。これではなんとも納まりが悪いというわけです。

 

 

 米国人政治学者ロバート・ケリー氏がアジア外交雑誌「ディプロマット」に寄稿した、「なぜ韓国はここまで日本に妄念を抱くのか」という論文において、ケリー氏は、南鮮の反日を次のように分析している。

 

 韓国が反日の姿勢を崩さない理由は何か。ケリー教授は結論として、歴史や植民地支配を原因とするよりも、本当は朝鮮民族の正統性をめぐって北朝鮮に対抗するための道具として使っているのだ、と指摘していた。

 

 ケリー教授は同論文で、近年の韓国暮らしの体験からまず述べる。

 

 「韓国で少しでも生活すれば、韓国全体が日本に対して異様なほど否定的な態度に執着していることが誰の目にも明白となる。そうした異様な反日の実例としては、韓国の子供たちの旧日本兵を狙撃する遊びや、日本の軍国主義復活論、米国内での慰安婦像建設ロビー工作などが挙げられる。旭日旗を連想させる赤と白の縞のシャツを着た青年が謝罪をさせられるという、これ以上はないほどくだらない事例も目撃した」

 

 そのうえで同教授は、これほど官民一体となって日本を叩くのは70年前までの歴史や植民地支配だけが原因だとは思えないとして、以下のような分析を述べた。

 

 ・韓国の反日は単なる感情や政治を超えて、民族や国家の支えの探求に近い。つまり、自分たちのアイデンティティーを規定するために反日が必要になるのだ。

 

 ・同時に韓国の反日は、朝鮮民族としての正統性の主張の変形でもある。自民族の伝統や誇り、そして純粋性を主張するための道具や武器として反日があるのだといってよい。

 

 ・韓国が朝鮮民族の純粋性を強調すれば、どうしても北朝鮮との競争になる。しかし朝鮮民族の純粋性や自主性、伝統保持となると、韓国は北朝鮮にはかなわない。そのギャップを埋めるためにも日本を叩くことが必要になる。

 

 ・韓国は朝鮮民族の正統性を主張しようにも、民族の純粋性を説くには欧米や日本の影響が多すぎる。政治の面で北朝鮮に対抗しようとしても、韓国の民主主義は人的コネや汚職が多すぎる。だから韓国の朝鮮民族としての正統性は北朝鮮に劣っている。そのため、日本を悪と位置づけ、叩き続けることが代替の方法となる。

 

 要するに、韓国の正統性の主張は本来は北朝鮮に対して向けられるべきなのに、日本叩きがその安易な代替方法となっているというのだ。

 

 日本に矛先が向かうのは、ひとえに朝鮮民族としての正統性が北朝鮮にはかなわないからである。本来、北朝鮮は韓国となお戦争状態にあり、韓国の消滅を正面から唱える敵である。だが韓国は、その敵よりも、日本をさらに激しい怒りや憎しみの対象として非難し続けるのだ。

 

 この民族感情における異常な屈折は、我々日本人の想像をはるかに超えている。彼らの反日が、自分たちのアイデンティティーを規定するためのものであるという説は、今までもあったし、珍しい説ではない。だが、それが、民族の正統性における北朝鮮への対抗での反日なら、攻撃相手が全く違う。そもそも、自民族のアイデンティティーのための反日ですら、迷惑以外の何ものでもなかったのだ。しかし、同じ民族同士の正統性の争いに、他国を巻き込めば、嫌悪感を持たれて当然だ。日本の嫌韓は、そういう不条理を全て包括した上で共感を得ていると言って、差し支えないだろう。(以上引用終わり)

 

 

 

2017年8月14日現在の朝鮮半島(この原稿を書いている時点)

 

北朝鮮

 

 北朝鮮の弾道ミサイル発射実験と国連の制裁決議が、互いにエスカレートし続けるなかで、北朝鮮軍は9日、新型中距離弾道ミサイル「火星12」によるグアム島周辺への包囲射撃計画について、4発同時に発射し、米軍基地があるグアム島周辺の30~40キロの海上水域に着弾させることを検討していると発表した。

 

 8月中旬までに準備を終わらせ、発射台を立てた態勢で核戦力の総司令官・金正恩の命令を待つとしている。包囲射撃では「島根県、広島県、高知県の上空を通過する」とも言及。

 

 日本政府は日本国内への落下に備えて空自の地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)を、北朝鮮が上空を通過するとした島根、広島、高知に愛媛県を加えた4県の陸上自衛隊駐屯地への配備を12日朝までに完了した。

 

トランプ大統領は北朝鮮に対して「炎と怒りに直面する」と激しい口調で警告を発しており、もし北朝鮮がこの計画を強行するならば、朝鮮半島をめぐる軍事的緊張は、1953年の南北朝鮮の休戦協定以来、最大に達することになる。

 

 

韓国

 

 韓国では、全国民主労組総連盟(民主労総)などが主導した市民団体が8月12日午後、ソウル中心部の竜山(ヨンサン)駅前広場で、日本統治時代に徴用されて日本企業で働いた徴用工を象徴する「強制徴用労働者像」の除幕式を行った。韓国で徴用工像が設置されるのは初めてであるが、今後日本大使館前や南部・済州市の日本総領事館前でも設置が計画されている。

 

 この問題が出てきた背景には、最近韓国の裁判所による徴用工の日本企業に対する損害賠償を認める判決が続いていることがある。

 

 徴用工の賠償問題については、日韓両政府ともに1965年の「日韓請求権協定」で「完全」かつ「最終的」に解決されたとの立場で一致している。

 

 協定に基づき日本から韓国に経済援助資金5億ドル(無償供与3億ドル、政府借款2億ドル)が提供された。当時の朴正煕大統領は日本からの援助資金を原資に、ソウル―釜山間の京釜高速道路や浦項製鉄所(現ポスコ)、後に冬のソナタで有名になった春川の多目的ダムなどを建設。それらは「漢江の奇跡」といわれた韓国の高度成長を支える社会基盤となったのである。

 

 ところが韓国大法院は2012年5月に「日本の朝鮮統治は違法な占領」という「後付けの理屈」で、元徴用工の賠償問題は日韓請求権協定の適用外であり、日本企業に対して損害賠償及び未払い賃金の支払いを求める「個人の請求権は消滅していない」という判断を示した。そのため、先に述べた徴用工に対する賠償請求を、韓国の裁判所が認める判決が続いているのである。

 

 「協定の適用外」が乱発され日本統治時代のあらゆる事象について日本政府や民間企業に賠償を求める動きが加速するのは想像にかたくない。そのように協定や条約を事実上破棄するような無法がまかり通れば国家間の合意など意味がなくなってしまうと懸念されている。

 

 これは「慰安婦像」問題とまったく同じ構図である。国家間で取り決めた約束について、法律の解釈を曲げてでも「国民の声」だとか「国民の感情」などの理由をつけて反故にする、これが韓国政府の常套手段であることがはっきりしてきた。